「自分たちで自分たちの街の電気を作る!」 市民出資で再生可能エネ進める動き広がる<ライフスタイル 地域とお金の流れが変わる> 

地球規模で自然エネルギーへシフトが進む中、市民主導で自然エネルギー導入を目指す動きが各地で活発化。市民から募った出資で風車などを建設してエネルギーを作って売電したり、産業の育成につなげている。新しいヒト、モノ、カネの流れが生まれており、地域活性化の起爆剤としての役割も期待されている。

市民主導で再生可能エネルギーを導入する動きが広がっている。
市民主導で再生可能エネルギーを導入する動きが広がっている。

エネルギーの自給で破綻寸前だった島が再生

映画「パワー・トウ・ザ・ピープル」では、100%の電気の自給を実現したデンマークのサムソ島を取り上げる。15年前、大企業の合併により地元の水産加工工場が移転した結果100人が失業し、経済破綻寸前だった島では、住民たちが出資して風車を建設することにした。そして、発電した電気を自分たちで利用するだけでなく、売電により利益を出すようになり、さらに、ネットワークを構築し隣人にも分配するようになる。地域住民が自然エネルギーを進めるために出資し、発電したエネルギーを地域住民で共有する「分散型エネルギー市場」の誕生だ。サムソ島では、こうした従来の大企業がつくる電気と決別することで、衰退に向かう一方だった地域が、住民主導で自立を目指す新しい一歩を踏み出した。

国内でも「市民風車」などが続々誕生

国内でも市民らが主体となって、自然エネルギーを普及させようという動きが広がる。出資者の募集や運営管理を担ってきた国内の草分け的な存在が、自然エネルギーファンド(東京都中野区/代表取締役・鈴木亨)だ。2001年、国内初となる市民出資による市民風車を北海道(浜頓別町)に設置して以来、東北、北陸、関東に10基を超える市民風車を建設。2005年には、長野県・飯田市で「おひさまエネルギー市民ファンド」を作り、太陽光、バイオマスを資源に、行政や金融機関と協力し地域エネルギー事業をスタートさせた。両ファンド合せて出資金は約40億円、参加者は延べ6000人超にのぼる。4月、都内で石狩(北海道)、会津(福島)、小田原(神奈川)、山口の4つのご当地エネルギー市民ファンドが説明会を行った。これらは自然エネルギーを作りだす設備の建設や運営費用にかかる費用を賄う目的で作られたファンド。目標利回りは2~2.5%で、被災地寄付金付きや酒や野菜など地域の特産品をプレゼントする特典をつけるものもある。自然エネルギー市民ファンドの鈴木氏は、「全国各地で続々と地域主体の再エネ事業が立ち上がり、地域事業への応援も始めている。放射能汚染も地球温暖化も心配しなくても済む、新しいエネルギー社会と豊かな地域社会をつくっていきたい」と語る。

野菜や特産品をプレゼントするファンドもあり。地場産業の育成にも効果が期待されている。
野菜や特産品をプレゼントするファンドもあり。地場産業の育成にも効果が期待されている。

集めた資金で、被災した酒造所が復興

山口で被災した地元の銘酒を作る酒蔵の復旧にあてる寄付付きの「みんなで応援やまぐちソーラーファンド2014」では、出資者に酒や野菜を贈る。2013年7月、集中豪雨により高さ3メートルの濁流が襲い、山口県萩市の澄川酒造場(澄川宣史社長)の自宅、蔵、精米機、酒づくりに必要なタンクは水没、パソコンのデータ、通帳やこれまでの関係資料などもすべて消失する壊滅的な被害を受けた。そんなときに社長の澄川氏を勇気づけたのは全国から駆けつけ、泥だらけになりながら復旧活動を手伝ってくれた杜氏や酒屋の仲間たちだった。今、再建した酒造所の屋根には、「市民エネルギーやまぐち」が運営する太陽光パネルが張られる。同社は地域の有志が出資して設立した非営利の株式会社。利益や配当を目的にせず、発電した電気を売電して得た収益を出資者への配当金にあてる一方、同酒造所の復興資金として寄付にあてる。そして、そのお返しとして澄川氏からは「応援してもらった全国の皆さんに恩返しをするには酒造りしかない」と、丹精込めて仕込んだ吟醸酒を贈る。地域の自然エネルギーの普及に投資されたお金が、産業の復興、育成にも役立ち、Win-Winの関係を構築した事例だ。環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也氏は「今後は小さな造り酒屋や農家などで電気を作っていくことが、一般的になるかもしれない」と話す。

澄川酒造場が作った吟醸酒。愛好家からも味が良いと評判だ。
澄川酒造場が作った吟醸酒。愛好家からも味が良いと評判だ。

エネルギー兼業農家が地域、食を変える!

この日は「エネルギーと農の融合、新しい地域社会づくり」をテーマにトークセッションが行われ、食、農、エネルギー、地域づくりについて意見を交換した。慶応大学経済学部教授・金子勝氏は、「国内農業の大規模化が進められようとしているが、海外の農業大国と同じ土俵で競争をしても勝負にならない。日本の農業は安心・安全、環境に配慮した農産物を作ることができるなど有利な面もある。今後の農家は加工、流通販売まで手掛けて6次産業化し、さらにソーラーパネルを導入し、余った電気を売電する『エネルギー兼業農家』を目指すのも方向性のひとつ」。また、千葉商科大学人間社会学部教授・伊藤宏一氏は「江戸時代の日本は、各地域が豊かな文化を持つ輝く多面体だった。地域内で経済を動かす仕組みがあったが、1900年ごろから戦費にあてるため、郵便局を通して地域の金が中央に集められるようになり、戦後は企業に流す仕組みが出来あがった。市民出資により地域に金が流れる仕組みがあれば、再び地方が個性を持つ、輝く多面体の日本になるだろう」と語った。

 特産品、雇用を生み出し、地域の活性化に一役

「自然エネファンドへの投資は、皆でいいことに出資して、いい社会を作っていこうという仕組み。後押ししていこうというムードが金融機関にもある」と大和総研主席研究員・川口真理子氏が話すように、今後、普及が広がる見通しもある。「ファンドという言葉に縁遠さ感じる人は少なくないだろうが、近所の井戸端会議などで『あっちでこういう商品が発売されたけど、(投資するには)いい商品のようですよ』などといった会話が普通に交わされるようになれば、良いお金の流れができ、将来的に自然エネルギーの普及、地域の活性化につながる」(金子氏)。市民による再生可能エネルギー自給の取り組みは、地域の特産品、雇用を生み出し、地域の活性化に一役買っている。高齢化や過疎に悩む地域にとって、起爆剤になる可能性を秘めているといえそうだ。