2030年の
原発比率3つのシナリオ


金子教授ら問題点を指摘

原発ゼロの会の国会議員や、学識者からなる「国会エネルギー調査会」は8月末に新しいエネルギー政策が策定されるのを前に、その判断を決定する上で鍵となる国家戦略室がまとめた「エネルギー・環境に関する選択肢」について検証を行った。

国のエネルギー基本政策は、8月中旬までに国民的議論を進めるとして意見聴取会や論型世論調査を行い、その結果を受けて政府は「エネルギー基本計画」を策定し、年内までに原子力政策大綱、地球温暖化対策、グリーン政策大綱を策定する流れになっている。同調査会が進める「原発ゼロ」や、使用済み燃料の「再処理ゼロ」の政策実現に向け、残された1カ月の期間が極めて重要になるとして検証を行った。

7月11日、行われた調査会で議論の中心になったのは、2030年の原発比率を決める「ゼロ(%)シナリオ」「15(%)シナリオ」「20~25(%)シナリオ」の3つのシナリオについて。委員からは「次々に問題が明らかになっている原子力ムラが作った案で検討を続けていいのか」「ゼロ(%)シナリオの達成が、如何に難しいかを強調した資料になっている」など厳しい声が上がったのを始め、慶応義塾大学教授の金子勝氏も「極めて問題が多い」として6つの視点から見解を述べた。

以下、金子氏の発言要旨

(1)3つの選択肢から選ぶのであれば、真ん中の「15%」を選ぶ人が多くなるのは当然のことだ。この選択肢が選ばれることはあらかじめ想定済みで、これでは選択肢とは言えない。また、その「15シナリオ」だけが2030年以降について方向性を決めておらず、問題を先送りにする狙いがあると推測される。

(2)どこを議論の出発点とするかを明らかにすべき。原発ゼロの会では「原発危険度ランキング」を発表し、その中で特に危険度が高い24基について即時廃炉を求めている。大飯原発が稼働されたように、このまま順次、すべての原発が稼働されていくのか、そこを国民はもっとも知りたがっている。

(3)いずれのシナリオにも省エネによる削減分は、10%分しか入っていない。スマートシティー、スマートファクトリー、スマートハウスの導入や、住宅に遮熱のコーティングを施す塗料、LEDなどを使えば30%は見込める。省エネは技術革新を促すチャンスで、それこそが産業再生の鍵であり、日本の成長戦略につながる。

(4)出口の核燃料サイクルの問題が議論されていない。原発はトイレのないマンションと言われるが、核廃棄物の処分場は満タンに近い状態。出口が決まらないまま、使用済み核燃料を出し続けていいのか。その見通しが立たないのに、選択肢だけ作っても意味がない。また、もんじゅ(福井県)には2兆円、六ヶ所村(青森県)には3兆円の他、使途不明金4000億円が使われており、八ツ場ダム10個分にあたる膨大な税金の無駄遣いが行われている。原子力ムラをはじめとする既得権益の構造にメスを入れず、選択肢の議論を進めるのは適当ではない。

(5)パーセンテージでは表せない安全規制と、安全コストをどう見積もるのかが大切。大飯原発を再稼働したが、関西電力は40年廃炉という方針下では、数千億円とも言われる免震棟などの安全対策費用の投資はしないだろう。安全投資をしないのだから「原発は安い」ということになる。それを入れず、原発コストをシミュレーションしても意味がない。

(6)電力の供給体制をどうしていくのか、発送分離などの議論を進めるべき。また、福島原発事故の処理が正しいのか。今日までに除染作業、安全の対策が十分に実行され、事故が起きたときの保障が十分に検証されたと言えるのか、議論が不十分。経営責任が問われないまま、その代償は電気料金の値上げという形で国民が支払っていくことになるが、これが正しいのか。原発のコストは低く見積もられており、これこそが問題であり、選択肢はあまりに抽象的で、建設的な議論ができているとは言えない。

残された短い期間で方向性が決定できるのか、そもそも3つの選択肢から選ぶことは正しいのかなど、根本から見直すべきとの意見は根強い。間もなく、政府から3つの選択肢が示される。原発再稼働など政府の強引な手法が目立つ中、国民にとって何が正しい選択なのか、見極める必要がある。


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