ブックレビュー

日本を捨てた男たち 
フィリピンに生きる「困窮邦人」

2011年第9回開高健ノンフィクション賞受賞作

年間自殺者3万人、生活保護の受給者数205万人、孤独死、派遣切り、格差社会…これらの言葉が物語る通り、今の日本は豊かで、住みやすいとは言えないだろう。

「競争が第一」と弱者が切り捨てられていく社会が豊かであるはずがない。歴史ある大企業でも潰れてしまう今の時代、今は仕事があり、安定している人でも明日はどうなるか分からない。

そんな時代を映してか、街ですれ違う表情も暗い人が多い。本書は日本から逃げ出し、フィリピンで困窮生活を送る人たちを取材したドキュメンタリーである。

フィリピンクラブで知り合った女性を追って、所持金わずか5万円で渡航し、現地でホームレス生活を送る派遣切りにあった男性、また、真面目に定年近くまで勤めていたもののフィリピンクラブを知ったのを契機に人生が一転。退職金を持ってフィリピンに移住して数年で所持金が底をつきかけている男性など、フィリピンで困窮生活を送る日本人が登場する。

貧しくても家族で支え合って明るく暮らし、「困った人を助けるのは当たり前」というフィリピンの人たち。海外からは豊かだと思われている日本人が、フィリピンでホームレス同様の生活を送り、発展途上国と思われている人々に支えられている。

一方、こうした生活を送る「困窮邦人たち」を見て、現地で長年暮らす在留邦人らの反応は冷ややかだ。「それって彼らが選んだ生き方なんでしょ」「不法滞在の分際で何をしているのか。甘えるんじゃない」という声がピンとこなかったという筆者。「本当に自分から選んでそうなったのか」と自問自答する。

「異国の地でホームレスとなっていること。彼らが逃げ出した日本社会を見つめなおすことで、その澱(おり)のようなものが見えてくるのではないか」。「日本は生きづらい」と語ってもらうことで、「日本を告発する」。取材当初、そう考えた筆者だが、取材を進めるうちにより問題は複雑化していく。

「こんな私でも生きているということは何か意味があるんでしょうかね」と問いかける困窮邦人に対し、ハッと気づく。見栄や意地、狡猾さ、寂しさ。誰もが持つ感情であり、人は本来、誰でも弱く、はかない生き物だということに。

何気ない毎日がある日、突然、くるいだし人生が大きく変わっていく。登場人物に起こったことは現代を生きる誰の身の回りに起きても、不思議ではないことのように思える。明らかにされた「フィリピンの困窮邦人」。そこに映し出されているのは「自分」?そう感じる人も少なくないかもしれない。

日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」/水谷竹秀/著(単行本・ムック)

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