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ブックレビュー
奇跡のエコ集落 ガビオタス

多くの日本人にとって中南米のコロンビアという国は馴染みが薄い。コーヒーの産地として有名だが、むしろコカインや麻薬組織、ゲリラなど負のイメージが強い国かもしれない。

その国に誰もかえりみない不毛な大草原「ガビオタス」という地域があった。「ここで人が暮らせるならどこでも暮らせる」と立ち上がった一人の若者がいた。一人の情熱は学者、技術者、音楽家、農民たちなど多くの人を巻き込んでいく。

争いが絶えず、資源に乏しいその土地で知恵を絞り、画期的な環境技術を生み出し、コミュニティーを発展させていく。ガビオタスの試みは国連からも注目され、やがて発展途上世界のモデルに指定され、1997年には「世界ゼロエミッション賞」を受賞した。

ジャーナリストである著書は25年にわたるガビオタスの取り組みを取材するため、軍隊、極右武装集団、ゲリラたちが守るバリケードを通過し現地をレポートした。

何もなかったこの土地に人々が住み、やがて学校や病院が生まれていく。サステナブルなコミュニティーの実現を目指し、飲料水の確保や水耕栽培、太陽発電や風力発電といったクリーンエネルギーを使ったソーラーシステムなどを次々に開発していく。その内容は世界中の場所で活用できるのではと考えさせられるものばかりだ。

そして、著者が主張するのは、「コロンビアはコーヒーとコカのプランテーションだけの国ではない」ということだ。資源も豊富で識字率はどの国と比べても見劣りしない。科学者、技師、作家、実業家と人材も豊富で、可能性が詰まった国だという。ガビオタスの話を通じて、「人材」や「可能性」についての魅力も伝えている。

広大なサバンナに夢を抱いた人々が集い、力を合わせ、知恵を絞ってサステナブルなコミュニティーを作りあげた。そんなガビオタスのストーリーは人類の未来に希望を抱かせてくれる。

早川書房・1700円。アラン・ワイズマン著【ジャーナリスト】。高里ひろ訳


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