茶番だった大飯原発
再稼働のシナリオ


原発再稼働は、政産学官の利権を温存し、

新しい時代の成長の芽を摘む



野田首相は5月30日、関西電力大飯原発3、4号機を再稼働させる考えを表明した。同原発が再稼働しない場合、今夏14.9%の電力が不足するとの試算を踏まえて再稼働を決断したもので、5月に国内でゼロになっていた原発が再び、動き出す。

原発を推進する側にとって、この夏、節電で乗り切れば、国民からは「原発不要論」が高まりかねず、懸念していたことであったことは想像に難くない。原発再稼働は昨年から描いていた規定路線であったにもかかわらず、不足電力の発表や節電要請などはギリギリまで判断を迷ったかを思わせ、「再稼働不可避」を印象づける茶番だったと言える。

一方、経産省が東京電力から値上げ申請を受ける前の4月に「9月1日までに値上げ」という「値上げシナリオ」を作成していたことや、日本原子力研究開発機構の高速増殖炉「もんじゅ」の専門委員会の委員長らが、ストレステスト(耐性評価)の業務を受注した三菱重工などの原子力関連の企業から5年間で
1600万円もの寄付を受けていたことなど、政官財学の持たれ合い、癒着構造も次々に明るみに出ている。

世界で脱原発が進む中で、この夏を「節電」で乗り切ることは省エネや、新エネなど産業や技術において成長を促す絶好の機会であった。「原発再稼働」の判断は既得権益者が利することを優先した結果にすぎず、国の未来にとっても大きな損失であり、古いしがらみから脱却できず、国の将来ビジョンを示せない政治を改めて印象づけるものとなった。

一方、大飯原発を持つ関西電力の赤字は今期2500億円で、来期は4000億円に達する見通しだ。原発による発電が50%を超える、原発に依存する経営構造。しかも、稼働する原発の多くが老朽原発で、「黒字化が最優先となり、安全性が疎かになるのでは」との危惧もある。福島原発事故でひとたび事故が起きれば、取り返しのつかない事態になることを国民は知った。「電力が足りないから再稼働」というのはおかしな論理で、安全を最優先させなければならないことは言うまでもない。

生物ジャーナリストのレイチェル・カーソンは1974年に著した「沈黙の春」の中で、「人間という一族が、おそるべき力を手に入れて、自然を変えようとしている。ただ、自然の秩序をかきみだすのではない。今までにない力、質の違う暴力で自然が破壊されていく」と書いている。人類は目先の利益を追うのではなく、自然の中で暮らさせてもらっているという謙虚な姿勢に立つべきである。

国民は政治家や官僚の「嘘」を見抜いている。古いしがらみや既得権益者の嘘、それを正当化しようする様は、おかしさを通り越して滑稽だ。レイチェル・カーソンのようにまっとうな道を示して欲しいものであるが、野田首相にそんな崇高な精神を期待するのは無理のようだ。茶番劇はもう終わりにして欲しい。

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