エネルギー政策は今も、
既得権益者が握っている


原子力ムラがエネルギー政策を
決める危うさ


内閣府の原子力委員会が本来の会議の席以外の場所で、原子力ムラを中心とする原発推進派だけで非公式の会議を開き、原発推進派にとって有利に運ぶよう報告書の内容が書き換えられていた。

政府の目標として今夏にも定められる「新エネルギー基本計画」の策定を前に、原子力委員会での方針決定は大きな意味を持つ。その信頼性を大きく揺るがす事態で、福島原発事故以前と変わらず、原子力ムラ、原子力行政らが主導している実態が明らかになった。

問題となっているのは、使用済み燃料の管理・処理や再処理、処分方法などについて、推進派が有利になるよう書き換えられていた点。

現在、原子力委員会をはじめとする4つの委員会で話し合いを進めており、集約された意見が今夏、エネルギー・環境戦略でまとめられる手順となっている。


原子力委員会は福島原発事故後も近藤駿介委員長(東京大学名誉教授)がトップに留任。原子力政策を決める基本方針策定メンバーにも、同じく電気事業連合会の八木誠会長(関西電力社長)日本原子力研究開発機構の鈴木篤之理事長ら原発推進派が名を連ね、原子力行政に依然、強い発言力を持っている。

こうした原発推進派による「談合・癒着体質」が明らかになったことで不信感は高まるのは必至で、近藤委員長の責任問題にも発展しそうだ。

以前から傘下の会議では「原発推進派がトップとなり、最終的に推進派の意向にまとめるよう導かれている」という意見があり、会議の進め方や、委員の人員選定などを疑問視する声が上がっていた。


超党派の国会議員で作る「原発ゼロの会」は5月25日エネルギー・環境会議における「革新的エネルギー・環境戦略」の策定にあたり、検討のあり方、やり直しを含め、透明かつ公正な論議を行うよう、エネルギー・環境会議議長の古川国家戦略担当大臣に緊急の要請を行った。

一方、エネルギー・環境会議の下で意見をまとめている委員会の中のひとつ、総合資源エネルギー調査会基本問題委員会では、三村明夫委員長(新日本製鐵 代表取締役会長)に対して、「恣意的なまとめ方をしている」と委員から指摘が上がっていた。

現在、経済産業省の審議会で2030年の原発依存は
「0~35%」の間で5案が提示されているが、政府の「原発の運転は原則40年で廃炉」の方針に従えば「12~13%が妥当」というのが専門家の見方で、20%以上の計画は原発を新規に増設しなければ実現できない数字。

「原子力依存度の高い提案に対しては、他の多くの委員会から異論が出たにもかかわらず、委員長、および、事務局が採択して強引に進め、あらかじめ意図している結果を導くため形骸化した議論にしている(原発ゼロの会)」という意見もある。

大詰めを迎えている目標数値についても、原発ゼロを目指す同委員会の自主的分科会・国会エネルギー調査会準備会は、「数値目標は大事なことではない」という見解で、再考を求めていく考え。

環境エネルギー政策研究所の飯田哲也氏が、「数字の選択は、エネルギーの選択ではない。会議では目標数字の設定より、今後のエネルギーをどうしていくかを議論すべき」としているのに対し、三村委員長は「政策議論するためには、数字を積み上げないと意味がない」と主張。

両者の議論は平行線をたどっているが、電気を多く使用し、電気料金の値上げが即経営に直結する業界の既得権益者である企業のトップである同氏に委員長を任せてもいいのかという指摘や、お膳立てする官僚に対して疑問を呈す見方が少なくない。

首都大学の宮台真司教授はインターネット動画チャンネル・デイリーモーションでの対談で、「アジアなどの途上国が猛烈に追い上げ、古い産業が淘汰されていく今、日本の企業は未来に向けて、豊かさと生き残りをかけて新しい価値の発見を目指さなければいけない。そして、エネルギーに関しても新しい政策を打ち出していく必要がある。

そのためには、産業構造自体を変えていく必要があるが、それは既得権益を移行するということでもある。今、必要なのは日本がどうなっていくかという議論。三村氏は既得権益の代表者であり、言っていることは単に既得権益を持つ業界、自分の企業を守りたいということ」と批判した。

原発事故以降も原子力ムラは反省することもなく、以前と変わらず権力を持ち続け、原子力行政を動かし、国の方向性までを決めようとしている。未来のエネルギー政策を事故の反省もない原子力ムラにこのまま任せていいのだろうか。その動きを注意深く見守っていく必要がある。

参考:

新日鉄 三村委員長の暴走 総合資源エネルギー調査会基本問題委員会 - デイリーモーション動画

毎日新聞:核燃サイクル原案:秘密会議で評価書き換え 再処理を有利

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