地球環境問題、社会問題を歌う異色のアイドルグループ・制服向上委員会。結成22年目。ライブ、ボランティアを中心に活動

脱原発・いじめなどテーマは様々。新曲は「金目でしょっ!」

脱原発、地球環境問題をはじめ、憲法9条、いじめ、歩行喫煙など社会問題をテーマにした曲を多く歌い、全国各地でボランティアやライブ活動をしている異色のアイドルグループ・制服向上委員会(アイドルジャパンレコード)。福島原発事故後の2011年9月には、CDシングル「ダッ!ダッ!脱・原発の歌」を発表し話題を集めた。

アイドルだから、言いにくいことも言える

現在、9代目のメンバーは10人で活動中。今秋、新しいメンバーも加わる予定。
現在、9代目のメンバーは10人で活動中。今秋、新しいメンバーも加わる予定。

制服向上委員会は1992年結成で、22年目という長寿アイドルグループ。現在の10名のメンバーは9代目。結成当時はCDが売れなくなり始めたころで、冬の時代でもあった。「10人の人から年間1万円をいただけるアイドルにしようという思いで始めました」とアイドルジャパンレコード代表の高橋廣行さんは言う。

ある脱原発イベントに参加した際には、数十人の機動隊に取り囲まれたこともあったという。悪いことをしたのかだろうと不安になる時もあるし、怖い思いもする。そして、大手スポンサーの支持を受けづらく商業的にマイナス面が多いにもかかわらず、難しいテーマの曲を歌い続けるのはなぜか。

「日本では珍しいと言われますが、イギリスなど海外ではアーティストがこうした曲を歌うのは一般的です。間違っていることに対しては、きちんと『おかしい』と言っていかなければならないけれど、言いにくいこともある。その点、アイドルは歌や踊りが下手でも、転んでも、間違っても許されますし、お客さんも寛容なんです。ファンの中には『原発賛成』という人もいるんですよ」と高橋さんは笑う。

「国内には現在、1000ほどのアイドルグループがあるとも言われますが、イベントによっては訪れるお客さんよりもアイドルの人数が多いこともある。2曲歌って握手して終わりで、誰も歌なんて聞いていないんです。また、ボランティアという場合でも普通は一度きりということが多いですね。でも、制服向上委員会の場合は同じ老人ホームや障害者施設に何度でも行きます。『また、来てくれたんだね』と喜ばれ、メンバーもやりがいを感じています」。

根強いファンは40代、50代の中高年男性

制服向上委員会のライブ。訪れた中高年のファンたちは大きな声援を送っていた。
制服向上委員会のライブ。訪れた中高年男性のファンたちは大きな声援を送っていた。

ライブがあるとのこと、訪れてみた。ふだん多くの人でにぎわう東京・上野だが、お盆休み最終の日曜ということもあって、制服向上委員会のライブが行われたこの日は街を行き交う人影もまばら。狭い路地を入った地下の小さなライブハウスは40代、50代以上と思われる中高年の男性たちでいっぱいだった。

ライブが始まると、ファンが曲の途中で入れる合いの手、野太い男性グループの掛け声が会場にとどろき盛り上がる。1970年代から1980年代にかけてアイドルブームが起きたが、その応援方法や掛け声は、当時を彷彿とさせる。

制服向上委員会が歌う曲は、地球環境問題やいじめなど社会問題を取り上げたものの他、恋愛をテーマにしたものも多い。一方で爽やかな歌やダンスのステージと、声援を送る中高年男性たちの間にある“不思議な間”。

聞くとかつてのアイドル全盛の時代から『アイドル好き』を自任する人、メンバーたちを自分の娘のようにように思っている人、有名なグループは手が届かない存在だけど身近に感じられるから…など、ライブに来る目的はそれぞれのようだ。人気グループでは、自分が好きなアイドルを応援するため、一人で何枚もCDを購入しその支出は一人数万円に及ぶ人も。それだけに、アイドル市場は経済力を持った中高年が市場を支えているとも言われる。

これからも地球環境問題、社会問題を訴え続けていく

「歌える場所があればどこへでも」がモットー。イベントやボランティアに積極的に参加している。
「歌える場所があればどこへでも」がモットー。イベントやボランティアに積極的に参加している。

この日のライブでは、新曲「金目でしょっ!」など3時間にわたって熱唱。「金目でしょっ!」は石原伸晃環境相の福島での発言をヒントに曲にしたもので、「日本全国、金目でしょ~♪」とユーモラスに今の日本、政治を皮肉る。近くYouTubeにアップする予定という。10月1日に発売される41枚目、結成22年記念アルバムとなる「ルールとマナーを守ろうよ!」にも収録される。

ライブの途中や終了時に設けられる写真タイムでは、お気に入りのアイドルと記念撮影ができる。写真に収まった男性たちが満面の笑みで、幸せそうな表情を浮かべていたのが印象的だった。

ライブが終わって、会場を出ればすぐに再び現実の世界に戻され、明日からは普段通りの毎日が始まる。街の喧騒の中で道すがら男性たちは、次にライブに参加する日が来るを楽しみに、明日からもまたがんばろうと思うのかもしれない。地球環境問題とアイドル、そしてファン。接点はないようであるのだった。(ライター 橋本滋)